『松風』

普通に考えてみてください。当時の在原行平の立場からすれば、この場面では絶対に2度と会えない状況なんです。とても切ないことです。しかも一人の人を二人の姉妹(j松風、村雨)が愛するのですから・・・・・まさに「恋の悲劇」です。
でも・・・能の世界では、恋の悲劇ゆえ、情念の極致ともいうべき世界を鮮やかに象徴して作り出しているのですから。
登場人物  <シテ> 前―汐汲女  後―松風の霊   
          <ツレ> 前―汐汲女  後―村雨の霊    

              
《面》       “若女”         
            
“小面”

《主なあらすじ》

諸国一見の僧が西国行脚を志して、摂津・須磨の浦へとやって来ると、いわくありげな松の木があり、所の者に尋ねると「昔このあたりにいた海士の、松風と村雨という姉妹の旧跡だ」という。
その松を弔ったあと、日暮れてきたので、旅僧はとある塩屋に一夜の宿を請おうと待っていると、二人の海士が汐を汲んでいる。それは塩屋の女主人であった。帰って来た海士に一夜の宿を請うと、「むさくるしい所なので」と一度は断わるが、僧を招き入れる。先ほどの松の話をすると、二人の海士がいたく感傷的に聴くので、不審に思った僧が問うと、「実は、あなたが弔っってくれた松風と村雨の幽霊です」と素性を明かす。昔、都から来た在原行平を慰めるため選ばれた姉妹だが、行平は三年で都に還り、すに亡くなってしまったという。
松風は、形見の烏帽子と狩衣を着けて、歌いながら舞を舞い、菩提を弔ってほしいと回向を頼む。夜が明けて僧がふと目覚めると、それは夢であった。
海女乙女の亡霊は汐を汲む。月影が桶に浮かび、そしてあふれる水と共に、月光は千々い砕ける
形見を身にまとい追慕の舞を。
夜の車に月をのせて。憂しとも思わぬ汐路かなや。
▽見どころ
前半の、ふたりの女が汐汲みをする、晩秋の月夜の静かな場面と、後半の、松風が行平の形見の烏帽子・狩衣を身に着けて舞ううち次第に、松を行平と思いこんで狂乱状態になってゆく動きのある場面の対比がおもしろい。二人で舞っている訳ですが、同型同装の『二人静』とは、若干おもむきが違うと言えるでしょう。

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《主な場面》

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《雑感》

能曲目解説