能曲目解説

主なあらすじ

柏崎領主に仕える小太郎者が、主人が出張先の鎌倉で急逝し、その子の花若も父の死を嘆いて出家したことを、 領主の妻に報告するために国許に急いでた。 領主の家に着いた小太郎は、程なく妻の前に通された。
夫と息子の帰郷を心待ちにしている領主の妻。その姿を見て小太郎は、当初、ただ涙するばかりだったが、 やがて意を決し、自分が国許に戻ってきた理由を口にする。

簡単に夫の死を受け入れることなどできないと、領主の妻は嘆き悲しむ。さらに、形見を手にした時、領主の妻の 目に息子花若からの手紙が止まる。
手紙には「母のもとに戻り、顔を見たいのは山々である。だが、もし会えば、父の菩提を弔うために思い立った仏道 修行を反対されるかもしれない。だから、気持ちを強く持ち、このまま会わずに出発することにした。もし命があれば、 三年のうちに戻るので、父の形見を見ながら、心を慰めていて欲しい」と。
手紙を目にした後、その感情はわが子への恨みに変わっていた。父の死が悲しいのは分からぬでもないが、死んだ 父のために仏道修行に出る気持ちがあるのなら、どうして母のため、姿を見せようという気持ちにならないのか・・。
一瞬わが子を恨みはしたが、その一方で、どうかわが子を守り給えと、領主の妻は神仏に祈るのであった。

季節・所は変わって、信濃の善光寺。僧の姿をした花若が、住職伴われて、如来堂に向っている。 そこへ一人の狂女(柏崎領主の妻)が現れる。
夫の成仏、子の無事を願って仏に導かれるように善光寺へやって来た。内陣(如来堂)に上がり、夫の成仏を祈念 しようとする女。それを見た住職は、内陣は女人禁制のため上ることは叶わないので、立ち去るよう伝える。
しかし、女は如来堂から立ち去ろうとはしない。さらに供え物として持参した夫の形見取り出して、心の内を如来 に訴え始める。夫との思い出、わが子がいないこの世のはかなさ、その煩悩、そして人間の弱さ……。 その女の様子を見ていた花若は、自分こそ息子であると女の前に名乗り出る。住職が如来堂に入ることを咎めた ときから、自分の母であると分かってはいたが、人目をはばかって、これまで名乗り出るのをためらっていたのだ。
互いの変わり果てた姿にしばし呆然とする母と子。だが、それが現実であることを知ると、心の底から互いの無事 と再会を喜び合うのだった。
▽面     ❃前シテ 曲見。   ❃後シテ 曲見

❑「柏崎」

▽曲柄    ◎女物(四番目物).

「罪障の山高く  生死の海深
夫の形見と息子の遁世の手紙を
 受け取った女

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鑑賞ポイント解説
▽登場人物
▽形式    ◎複式現在能
 

前シテ  柏崎殿の妻    ワキ 小太郎 ○ワキツレ 善光寺の僧  ❁子方 花若
後シテ  柏崎殿の妻(狂女)
▽主な場面