能曲目鑑賞ポイント解説

今回は世阿弥自筆本による特殊演出です。

自筆本について。
・世阿弥が金春太夫に宛てて書いた本であり、基本的には前文カタカナで記されている。(中には若干の漢字も見られるが・・)
 ここでいう金春太夫とは世阿弥の娘婿にあたる金春禅竹のことである。
なぜカタカナなのかと言うと・・・別に教養がない訳ではありません。なぜなら彼は自身の演技論が記されている「二曲三体人形図」においては全編漢字で書いています。
彼はカタカナを使い「音の世界」を正確に伝えたかったようです。
この特殊演出は善光寺の由来を語る「アイ狂言」と後半のシテとワキツレの押し問答の場面で見られます。

●曲の位置づけと特徴。

狂女物(四番目)の中にあって、特に品位のある曲である。夫に先立たれ、さらにわが子にも出家された二重の悲悲しみがそのまま狂乱としてあらわれますので、場面は地味ですが、、それだけに真実性と深みがあります。
したがってシテが傾ける愛情の対象は、子供と夫であり、母の愛情の深さだけを表現した他の狂女物とは少し違います。この二つのテーマを扱ったところが、曲の特徴です。
特に、前場で子の手紙を読んだ直後から中入までの部分・・、まず子への恨み・・しかし一方では我が子の身の安全を祈る優しさという、二律背反の母親の心理描写は見ごたえがあるといえます。
また、後場において住職に如来堂から立ち去るように言われながらも、夫の成仏を願い、祈願を続ける場面などには、妻としての一途な思いが伝わってきます。
謡の内容も深くて味がある。→すばらしい語りがいっぱいあります。母は「狂人」、息子は「粗末」等々。
舞としてはカケリや二段グセの曲舞が盛り込まれている

さて・・・・・本番です・・・

《前場》

役者登場・・・・・・・・。
?!・・・・どういう訳かワキの登場ではなく、シテの登場です。これは能の特色である「シンプル」を表すひとつの技法と言えます。このシテは途中から係わる人物であるが、舞台の出入りを簡略化するための「ダシ置き」という技法です。
「着座」していますが、「いない人物」として扱われています。

ワキ登場・・・・・・・・。
・笠をかぶっているのは鎌倉より柏崎に旅をしていることを表しています。
・ワキの「次第」では・・・夢路も~と、鏡板に向かって謡いますが、板に描かれている老松の中に秘められている「聖なるもの」に対する挨拶の気持ちを表したものとも言えます。

シテとワキのやりとり・・・・・・・・。→そして退場へ
・予期もしていないことが小太郎から告げられて、にわかに事実を受け入れられない・・・受け入れたくない・・・・でも息子のことも気にかかる・・・息子に対する怒り等々が表現される。
物狂能では手紙を読み上げるという事が効果的に用いられることが多い。(熊野・桜川)。名文句が多い。

《後場》

場面は善光寺・・・・・・・・。
なぜ善光寺なのか?
道成寺などで見られるように、中世において寺院は基本的に『女人禁制』が多かったが、善光寺は女性に対して開かれた場所であったらしい。→女性参詣のスポットとしての位置づけ。
従って苦悩を抱き続けたシテは、拠りどころを探して善光寺に行ったのであろう・・・・

自筆本第一番目の演出です・・・・・。
・子方・ワキツレが着座後アイ(山本東次郎)が登場する。通常は登場しない。
ここでは善光寺の阿弥陀如来の由来が語られます。

自筆本第二番目の演出です・・・・・。
囃子の一声とともにシテが登場し、ワキツレとの間で押し問答がなされる。
なぜ「押し問答」なのか?・・・・・・
・善光寺は女性に寛容であると前述したが、内陣は別である。阿弥陀様のいるところであり、女性が入ってはいけない「結界」であることが、ここでうきぼりになる。
しかし、亡き夫への恋慕の気持ちが阿弥陀様への崇拝と重なってくる。→入ってはいけない「内陣」に入っていく緊迫感がこの曲を盛り上げて行く?のだはないだろうか・・・・・
●狂う・・・・・・。
笹(狂い笹)を手にして登場し、カケリを舞う。
※カケリ・・・・・囃子をバックに舞台を廻る所作のこと。狂女物の所作で約束事である。物狂いとなった母の心理的動揺などを表現する、緩急のある舞踊的所作のこと(イロエ参照・・・・同じような動作であるが、舞踏的意味合いが濃く、舞台に彩りを添える。)

自筆本第三番目の演出です・・・・・。
・子方の台詞・・・・通常では観世流でもこの場面はない。

物着
・普通この動作は後見座で行うが、今回は舞台中央である。この場面では夫の形見を身に着けたことで霊が憑き正気を失った状態になっていることを表している。通常装束は地味なものが多いが、今回は比較的華やかである。
舞は芸能者のものであり、普通の女性は舞わないのに・・・・・→舞の理由付けは明確だ!
柏崎での夫は宴会芸が得意であったことから、夫の物まねをキッカケとして舞に入る。(移り舞)

中の舞から最終場面へ・・・・・
以上

柏崎