「能の地謡」


地謡はシテ方が勤めます。見所(けんじょ)に向かって右側の地謡座に、6人~10人が2列に並んで座ります。
※見所・・・・・観客席のこと。舞台の正面に位置する、正面。舞台に向かって左横に位置する、脇正面。そして、舞台の斜め位置にある、中正面。

最初に前列、次に後列の順番に切戸口から出て来ます。観世流の場合、前列は見所側から鏡板に向かって上下関係となり、後列は通常の8人地ならば見所側から2人目が「地頭(じがしら)」といってコンサートマスターのような役の人が座り、その右隣が副地頭、一番見所側を「上(かみ)」、鏡板側を「下(しも)」という順番になります。

地謡は出入りの際にも細かい作法があります。
囃子方が出て、先頭の笛方がシテ柱の横を通り過ぎる頃に、切戸口を開けて地謡の先頭が出ます。そして太鼓(大小物では大鼓)が座るまでになるべく地謡全員が着席し、扇を腰から抜いて自分の横に置くようにします。
囃子方が自分の位置に掛ける時に扇を前に出し、両手を袴の中に入れて「休め」の姿勢になります。
★(この袴の中に手を入れるというのは、一説によるとそう古い習慣ではなく、ある名人が寒稽古の際に寒さを凌ぐために袴の中に手を入れたら温かくて楽で、しかも袴が手汗で汚れるのも防げるということで始めたのだ、と言われています。)ただし、江戸時代にお殿様の前で能役者が袴に手を突っ込んで座っていたとは考えにくい。

謡い出す前に両手を膝の上に置き、改めて両手で扇を持ち上げ右に回して180°回転させ最後に右手で膝の前に立てて持ちます。このタイミングは、前列の左端の人が責任者で、周りの人はその動きに合わせて扇を上げ下ろしする事になっています。(本来は地頭に合わせるのですが、どうしても前後でズレが生じることが多いので。)
謡い終わると、扇を膝に戻し、両手で下に置き、手を袴の中に戻します。これを繰り返していくわけです。

地謡そのものは地頭を責任者として一曲を作り上げています。地頭は周りの人に伝わるように息を吸い、ホンの半呼吸先に声を出すことによって全体の調子やテンポをまとめ上げます。その為には囃子の手組やシテの型を熟知し、ある程度の声量とパワーが無ければ勤まらないでしょう。

能の中で一番謡が多いのが地謡です。どんなにシテが頑張っても曲の後半は殆どが地謡に占められるので、地頭とシテの息が合っていないとバランスの良い一曲は作り上げられないのです。

地謡は、謡っていない時には袴の中に手を入れて座っています。これは「休め」のポーズです。
囃子方も道具を下に置いた時には袴の中に手を入れます。

○地謡も後見の役目をする場合があります。後列の見所側の人は物着(ものぎ・装束を着替えること)を手伝ったり、また、隅田川などのように、シテが正先近くで笠を捨てて立ち上がる時なども、装束の裾
床机の出し入れをしたり、を直しがてら、笠を引きに行きます。