能の小道具について

1.竿

竿には「水竿(みずざお)」と「釣竿(つりざお)」があり、竹の棒に糸(白い紐)が付いているのが 釣竿でただの棒が水竿です。
舞台上で水竿を持つというのは舟に乗っているという事になり、釣竿を持っているのは当然漁師 ということになります。

水竿はシテだけでなくツレやワキ、間狂言も持つことがあり、一本の竿を数人が使い回すこともあります。
シテ方の場合は右手に持つ場合と左手に持つ場合がありますし、幕から持って出る時と後見が後から 渡すこともあります。

殆どの曲では竿は幕の中から持って出ますが、作物の舟が出るとシテは手ぶらで出て舟に乗って から後見がシテに持たせます。
釣竿はただ肩に担いで持って出る飾りの場合が殆どですが、「阿漕(あこぎ)」や「白楽天(はくらくてん)」では糸を使った型があります。
竿の長さは使う役者に会わせますが、最近では背の高い人が増えてきたので竿も長くなる傾向があります。


2.刀

太刀には修羅物などで使われる「太刀(たち)」の他に、山伏などが腰に差す「小刀(ちいさがたな)」、 烏帽子折用の「大太刀(おおだち)」、「真之太刀(しんのたち)」等があります。

太刀は「太刀紐」と呼ばれる平打ちの組紐を使って腰に下げる場合と、ワキツレが手に持って出る「持ち太刀」 という使い方があります。
本来は本物の太刀を使ったのでしょうが、現在では刃を木や竹に替えて銀箔を貼って使うことが多いようです。
修羅物では途中で太刀を捨てる型が多いので、金属だと舞台に傷が付いてしまうというのも一因なようです。
小刀は舞台上で抜くことは稀で、殆どの曲で腰に差してあるだけです。


3.杖

舞台上ではいろんな小道具が使われますが、その中でもよく使われるものに「杖」があります。

シテ方の杖には長短2種類の長さがあり、「盲目杖(めくらづえ)」、「幽霊杖または老女杖」と呼ばれています。
「盲目杖」は「弱法師(よろぼし)」「蝉丸」「景清」「望月」などに使われ、文字通り盲目の役に使います。
短い杖は、付き方の違いによって呼び方が代わり、「善知鳥(うとう)」や「藤戸」などの幽霊が使う時は「幽霊杖」と呼ばれ、杖には力を掛けずにただ上下に付くように持ちます。

これが「養老(ようろう)」や「忠度(ただのり)」など老人が付く杖になると、少しだけ前に付いて、いかにも杖を頼りに歩くような雰囲気を出します。

「老女杖」になるとはっきり前に手を出して杖を付き、杖にすがるように荷重をかけて一歩一歩丁寧に歩きます。途中で杖を前について一休みする「休息」と言う型もあります。

通常、舞台上で使う竿などは舞台に備え付けのものを借りて使いますが、杖だけは自分にあった長さのものを各自が持参して使います。
盲目杖は、「望月」以外はシテが付きながら幕に入りますので途中で後見に渡すことは無いのですが、 それ以外の曲では杖を舞台上に置くことがあります。
この時に置き方が二種類あり、その処置を後見が間違えるとシテが困ることになります。

一度置いた杖を再度持つ場合には両手で静かに杖を置きます。この場合は「もう一度使うから楽屋に 引かないでください」という合図となります。
逆に片手でパタッと音を立てて置いた(捨てた)時には後見がそのまま楽屋に持って帰ることになっています。

一番困るのが置いた杖が舞台の微妙な傾斜で転がってしまい、杖が見あたらなくなってしまったりする場合です。
なにせ能面を掛けているため視野はかなり狭くなっている訳ですから・・・・