本来大人である義経が子方によって演じられています。これは靜御膳との男女関係が生なしくなることを避けたためだと思います。間狂言の船頭も荒波にもまれる船を必死で操るなど、大勢の登場人物が活躍する場面も多く、現代劇に近い展開が観る者を飽きさせず、わかり易い作品といえる。
▽登場人物
<シテ> 前=静御前〔しずかごぜん〕 後=平知盛の怨霊
▽面 前=“若女,深井,小面”/後=“三日月,淡男,鷹
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一人のシテが“前シテ”と“後シテ”がまったく別人という柔軟の対比を演じ分ける珍しい構成です。
前シテは靜御膳、後シテは平知盛の怨霊という別人格だが、「女が落人の一行に混じっていては、おかしいから」と、義経に別れを言い渡される、白拍子の静御前の悲嘆を表現する静かな舞と、長刀〔なぎなた〕を振り回しながら襲いかかる、平知盛の怨霊の激しい舞との対比が楽しめます。
▽見どころ
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兄・源頼朝を助け、平家を打倒した義経であったが、何者かの讒言によって頼朝と不和となり、船で西国へと落ちのびようと、弁慶ら十余人を伴い、摂津の国大物の浦に到着する。
静御膳が義経を慕って来たが、弁慶の助言で義経から「独りで都へ引き返せ」と言い渡される。
泣く泣く別れの舞を舞う静を残し、義経一行が、船で瀬戸内海を渡っている時、突如海上に、義経に討たれた平家一門の怨霊たちが姿を現す。
中でも平知盛の怨霊が『自分と同じように、海に沈めてやる』と、義経たちの船に追いすがって来る。そこで供の弁慶が、数珠を揉み鳴らして祈祷すると、知盛の怨霊はしだいに遠ざかり、ついに消え去る。
平知盛の怨霊は、長刀をふるい嵐を起こして海上の義経達を襲う。
平知盛の怨霊が義経を襲う。
義経との別れの宴に、尽きぬ想いを舞う静御膳