能は武家専用の芸能としてさらに厚遇を得ていきます。 三代将軍家光の時に、能にとってその特殊性の根本となる、「参勤交代」の制度が定められます。。 現代の日本において、私たちは「日本語」という共通語を持ち、初対面の人とでも会話が成立しますが、当時の日本には、地方の方言以外、「共通語」は無かったのです。 初めて江戸に登ってきた大名達は会話が思うにいかず困り果ててしまいました。 その打開策として、当時武士が愛好して寵愛してきた能の詞章の部分、いわゆる謡曲を全員が学ぶことによって、その発声・発音・語意を使って共通語とするという事が定められたのです。 能は武士が、正しい発音、豊かな声量、優雅で荘重な身のこなしを身につけるための教科書=「支配者の芸能」として発達します。 そして「武家式楽」として、文章・演出などの勝手な変更を禁じられました。 このようにして、能は「進化を禁じられた演劇」となったのです。 そしてまた能は「見て楽しむ」芸能から、武士・支配者階級が「自らが演じて楽しむ」芸能となったのです。 そのため、能は素人である将軍・大名が、少しの努力で、端正で正確で迫力のある美しい舞台を表現できるよう、よりシンプルに、規格的で、安全で無駄を省いた、洗練されたものへと歩み始めていきます。 |
今回のテーマ〜《「能が果たした役割」》
能の雑知識