「安宅」の作者・背景
『義経記』などに取材した作品である。作者不詳であるが、観世小次郎信光の作品と一説では言われている。信光は観阿弥の弟音阿弥の子であり、自らは囃し方として活躍する一方、能作者としても優れた才能を発揮した。
※船弁慶、紅葉狩り。

見どころ~緊迫と弛緩
①単純にして力強い。極限の状況下で、人間はどのように行動するのか。それを大づかみに、じつにあざやかに書ききった作品。

②楕円形の力学
たいていの曲は、一つの円の中心にシテがいます。ほかの役は周辺にいてシテを盛り上げる。しかし・・この曲はずいぶん異なる。
楕円形の左右に、シテの弁慶、ワキの富樫それぞれ焦点として位置していて、ほぼ互角に対立している。そしてその二つの焦点が、状況によって大小を変化させる。

③バランスの移動
弁慶が勧進帳を読む>富樫、富樫が義経に眼をつける>弁慶・・・・・・弁慶の義経打ちでまた・・・焦点は弁慶へ。富樫が一行に酒をふるまうところ゛焦点は「イーブン」となる。

④勧進帳(三読物の一つ)
・謡の秘伝で、鼓との絶妙なせめぎ合いが面白く、聴かせ所。

⑤延年の舞
舞踊的な面白さをも十分味わいながら、楽しめる作品です。

ワキ・ワキツレ登場。・・・・・「笛」の登場楽で登場。
場所:加賀国 安宅関  季節:春(二月)
・ワキ(富樫)・・・・・安宅に関が設けられた理由を述べる。
・装束:梨打烏帽子、白鉢巻、直垂上下)、着付・厚板、込大口、小刀、扇

シテ登場。「登場楽」は「次第」。
・ここでの舞台は京都である。
・ここでは「幕離れの手組」という特殊な囃子である。
・まず源義経(子方)が登場し、次にシテが登場、そしてツレ(立衆)、オモアイの登場となる。
源義経はなぜ子方で登場するのか?
・江戸時代までは、相応の年齢の者であったが、高貴な役(天皇)でのイメージ作りとして「子方」が演出に使われたことと同じように義経も「子方」として演出されることになった。

・シテは「三の松」付近で一度立ち止まる。・・・主役を際立たせる演出である。
装束:兜巾.篠懸.厚板.水衣.白大口.腰帯.小刀.扇.数珠.後に経巻。

道行~京都から安宅まで。通常の曲よりも長い。
・「旅の衣は篠懸の。~」・・・・三遍 返シをここではオモアイが謡う。
・「これやこの。行くも帰るも別れては~」蝉丸の歌を引用し、大阪の関を出て、東国へ入ったことが示される。
・「波路遥に行く舟の。波路遥に行く舟の。海津の浦に~」で、場面は琵琶湖の風景となる。
・有乳山、気比の海。宮居。松の木芽山河瀬、麻生津等々の場所が謡われて、安宅の関の手前に着く。⇒休憩。

安宅の関どのようにして通るか?
・このままでは、義経の高貴な姿が目立つので、「荷物運び(強力)」に変装させることにする。笈を担がせることに・・・
※笈:山伏が持っている仏具、食器、書物などが入っている箱のこと。

✤安宅の関の偵察
・強力を関の偵察に向かわせる→殺された山伏の首がさらされている。

◯アモアイ・・・・阿毘羅吽欠と唱えながら・・・・
・山伏は法螺貝を吹いて逃げたのだろうか?誰が追いかけてあのような様相にしたのか?→弁慶に伝える。

✤貝立
・弁慶が「法螺貝」に見立てて、扇を強力に渡す。⇒強力がそれを吹く。
※法螺貝は山伏のシンボルのような道具です。山伏が強調されている。
No.2
いよいよ安宅の関へ・・・・
・「よろよろとして歩み給ふ御ありさまぞ痛はしき。」・・・強力に扮した義経の姿を見て、一同心を痛める。
・山伏に変装しているのは、焼き払われた東大寺の再建の寄付を募るため北陸へ派遣された集団(勧進聖)との建前である。
・真の山伏である事の説明が粛々と始まる。(密教の教えに沿って・・・)

🌟山伏を殺せば必ず熊野権現の天罰が下るであろうという、関守たちへの恫喝

富樫(ワキ)の逆襲!
・勧進聖であるならば勧進帳を見せて欲しいと切り返す。⇒小書き:勧進帳(三読物)※勧進帳:寄付集めの趣意書)
※この謡では、難しい節目の言い回し、囃子方との呼吸が大事である。シテが一人で謡う。
元々偽の山伏である弁慶たちが、勧進帳など持ち合わせているはずもない。だが弁慶は少しも慌てず、持ちあせた巻物を勧進帳と偽り、声高に朗読する。
🌟ようやく関所を通過・・・・・。と思った矢先!??
・「物運び」の義経が呼び止められる!!!
✪クライマックスの弁慶による義経の「打擲」
「モタモタしているから目に付くのだ」と主君である義経を・・・・・・・
・それでも通さぬと言い張る富樫。
・「ここまで強力に執拗にからむお前達は、定めし盗人に違いない」・・・・⇐ここも見せ場の一つです。
・あまりの気迫に富樫は無事通過を許す。

場面は変わって・・・・・安宅の関を少し離れた場所へと移る。
・弁慶は杖で義経を打ったことを詫びる。
・そこへ先刻の富樫たちが非礼を詫びに、酒を持ってやってくる。⇒義経は隠れる。

●延年の舞
・初段オロシで水を汲む所作。
・扇を持ち替えて二段目。
※左手の数珠を高く上げ、右腰へ法螺貝をあてる型「貝付の型」
・三段目
※観世流では、ここで掛け声とともに跳ぶ型となる。今回は三回。
※山伏らしい舞で富樫達に最後の圧力をかけている。
以上

能曲目鑑賞ポイント解説

❑「安宅」