■「氷室」の作者・背景
丹波国にあった氷室の氷を毎年帝に献上していた習慣を題材としている。宮増の作った脇能という説もある。
当時の世相から、世の全ては君の支配下にあり、その出生は君の徳のためであると語り君を讃えている。

世阿弥の脇能とは別の系譜と言っても良い感じで、後ツレ天女が天女舞を舞いますが、後シテの氷室明神は舞働を主に、氷を宮中に届ける様を見せるという趣向です。

見どころ
①前場の囃子である「真の次第」「真の一声」、後場の出端、天女舞の力強さ、颯爽感。

②前場における謡の充実感(サシ→下歌⇒上歌、クリ→サシ→クセ→上羽)とそれに合わせた「居グセ」、そして雪かきの所作。

③後場のツレによる天女ノ舞(華やかな笛の調べに乗っ優美な舞)。

④後場のシテ(氷室明神)の舞働。いずれも躍動感のある颯爽とした舞である。

≪前場≫

・場所:丹波国氷室山
作り物の一畳台と引廻しを掛けた山の作物が運ばれてくる。これが氷室山という設定。

ワキ・ワキツレ登場

登場楽:「真之次第」。・・・・ヒシギが吹かれる。強い打音の華やかな大鼓が響く。

・装束:紺地狩衣、白大口、大臣烏帽子、赤色の上頭掛け
ワキツレはワキと同装ながら狩衣の色は赤、上頭掛けの 色は萌黄。

登場後揚幕そばで「速メ頭」:両袖を広げて伸び上がる型。勅使系の決まり事。本舞台のワキ座でも同様の所作を行う。

次第(他流では→「地取」→「三遍返シ」)
・次第謡では、ワキとワキツレが舞台上で向き合って謡います。

・名乗リ:ワキは亀山院に仕える臣下で、従者を連れて丹波の国の氷室山にやってきた旨を述べる。
・道行「~氷室山にも着きにけり」

■前シテ・前ツレ登場。
・「登場楽」は「真の一声」
※大小の鼓がたっぷりと間をとり、しみ入るような笛が神秘的な雰囲気を醸し出します。
・季節はすでに雪もとけ、山の緑の美しい春です。老人たちは毎年帝に献上する、御調物の氷が入った氷室を守っている。

・まず先にツレが登場する。ツレは直面である。
・次にシテが雪かき(?)を持っている。
・装束:大口 白頭、扇、?
・面:小尉

橋掛リで向かい合い「氷室守、春も末なる山陰や、花の雪をも集むらん」と一声を謡い、舞台に進んでさらにサシ→下歌⇒上歌と何やらありがたげな詞章が続きます。

下歌:必ず拍子に合い、七五調の詞章を節付けしたもので、普通2・4句の短い章。大抵「下歌」の後「上歌」が続く。
上歌:登場人物の気持ちや感慨を述べる文が多く、10句程度の長さで、始めの2句と最後の2句が同じであることが多い。
     拍子に合わせて謡う。

・ワキが「氷室ではどうして春夏まで氷が消えないのか教えてほしい」と述べ、これに答えてシテが氷室の謂れを説明。

・仁徳天皇の御代からの各所の氷室が紹介され、やがてこの地に氷室が定められた旨がツレとシテによって述べられる

クリ→サシ→クセ
クリ:高音域を主としてよどみなく謡う。「サシ」「クセ」の導入に使われる事が多く、4・5句からなる。

・紀貫之も歌ったように、春が来れば氷は解けてしまうのが習い、この氷室の氷が解けないのも供御(くご)の力によるのであると述べ、大君の功徳を讃える詞章。

クセ→上羽
・クセでは、居グセとなる。
「上羽」(あげは)後からシテは立ち上がって型をします。
扇を納め、?を持ち雪を書き込み、それを作物の下、すなわち氷室山に設えられた氷室の中へ掻き入れる、という型

ロンギに入ったところで後見二人が下居しているシテの両袖を下ろすと、シテの口調が改まって神がかったようにゆっくりになる。
両袖を下ろすのは、雪掻きの作業のために襷がけをしていたのを解くという意味。

●氷室守は、今宵の氷調(ひつぎ)の祭りをご覧になれと告げる。地謡の謡も現世を離れたかのように緩やかなものとなり、シテは「氷室の内に入りにけり」との謡とともに、作リ物の後ろに回って姿を消します。
太鼓が入って来序となり、ツレもこの世のものと思われぬ足遣いで退場。

《中入り》
◯アイ登場:氷室明神の末社
・氷室の仕組みを解説し、氷が不老不死の薬として珍重されたことを述べる

・雪こうこう、と扇を振り上げながら雪乞いの踊りを踊ると、雪が降ってきたから雪ころばかしをしようと雪玉を作り、あら冷たやと手がかじかむ様子。どっさり雪が積もった様子を示してワキに一礼すると、短く舞って下がっていく。

≪後場≫

■ツレ登場。
・「登場楽」は「出端」
後場にだけある静寂と躍動感を交差させた登場楽。神・幽霊などの非人間の役のシテ又はツレに使われる。必ず太鼓が入る。
演奏スピードは千差万別で、登場人物像をよく研究して打たれる。

・装束:天女衣、長絹、大口、腰帯、天冠
袖の白い糸は露(ツユ)と言い、装束としての装飾の役割だけでなく、袖返しの際返り易くする錘代わりであり、バランスをとる役目を果たしている。

・面 :小面

天女舞(太鼓入り3段中の舞)・・・・やや早めに短く舞う。
・「立拝」・・・・両手を頭上で合わせる型。
・囃子は「天女之舞」
・足拍子でオロシとなりテンポがゆるむが、これは舞があまり加速しない様にするためである。→また元へ戻り、段をとって行く。
・華やかな笛の調べに乗って扇を振るいつつ優美な天女舞である。

■後シテ登場。
・囃子が警戒に奏でられ、シテ(氷室明神)が登場。
・作リ物の中から声が聞こえてくる。作リ物を覆っていた引廻しが取られて、神の姿をした氷室明神が、氷を両手に持って現れる。

・装束:赤頭、唐冠、紅入厚板、半切、狩衣、縫紋腰帯、神扇

・面 :小べし見
茶色の肌に目が落ちくぼみ、横一文字に結んだ口が特徴である。

舞働。
・暴力的なまでの足拍子と厳しく袖を巻き上げる型は躍動感にあふれている。
・氷室明神は氷を渡し、氷を捧げる様子を見せます。後シテの留メ拍子で終わり。

能曲目鑑賞ポイント解説

❑「氷室」