■作者と曲の背景。
・この曲は、「今昔物語」と「太平記」の記述を題材として、金春禅竹の孫である金春禅鳳が作った作品である。。
本名は元安。文亀年間(1501~1504)奈良より京都へ進出し、数々の演能を展開し、金春座を発展させた。
《代表曲》
・「嵐山」、「生田敦盛」、「一角仙人」、「初雪」など構想や演出形式に工夫のある軽い能を作った。

※『一角仙人』は宝生流を除く4流が伝えている曲です

この作品の見どころ。
①「楽」・・・・・・・・エキゾチックな旋律とリズムで足拍子が多く、拍子のノリのよい舞である。邯鄲と同じ太鼓入りである。
②相舞・・・・・・・・シテとツレによるあえて「シンクロナイズドしない」舞に注目!
③「舞働」・・・・・この舞で一角仙人を威圧している。相舞の感じもする。
④迫力のある斬組・・・・シテと龍神の斬組
⑤登場人物も多く、作り物が二つ出されるなど、大がかりで楽しい能である。歌舞伎の「鳴神」(なるかみ)のもとにもなっている。

この作品におけるその他の留意点。
作り物
・大小前には一畳台を置いてそのうえに岩屋の作物を乗せます。中には龍神が入っている。
・ワキ座には萩屋(シテが中にいる)
※この岩屋の作物は、現行曲ではこの『一角仙人』と『殺生石』の2番にしか用いられません。

登場楽について
・普通、ワキやワキツレの一行が登場する場面では「次第」や「一声」が演奏される事が多いのですが、それは登場したワキが発する第一声によって決められています。
※ワキが拍子に合う「次第」謡を謡う場合には、囃子方はやはり「次第」と呼ばれる拍子に合わない登場楽を演奏します。

・逆にワキが拍子に合わない「一セイ」を謡う場合、あるいはサシと呼ばれる拍子に合わない散文調の謡を謡う場合は、囃子方は「一声」と呼ばれる拍子に合ってノリのよい登場音楽を演奏します。

「一声」の場合拍子に合わせて打つのは大小鼓だけで、笛は「次第」の場合も「一声」の時も、どちらも拍子には合わないアシライの譜を吹きます。

・また登場したワキが最初に謡うのが、「これは諸国一見の僧にて候」などと詞(コトバ)による名宣リを謡う場合は、「名宣リ笛」と言って、大小鼓は何も打たずに、笛だけが叙情的な譜を吹きます。
・『一角仙人』ではワキが登場して最初に謡うのは「これは波羅奈国の帝王に仕へ奉る臣下なり」という詞ですから「名宣リ笛」が吹かれるように思えますが、じつはそうではありません。

※「名宣リ笛」の演奏上の制約。
①登場した役者がワキであること。それが最初に謡い出すのが詞による「名宣リ」であること。②ワキを含めた登場人物が複数である場合には、ワキ一人だけが舞台に入って謡うこと、という条件があるのです。

前ツレ・ワキ・ワキツレ登場。
・旋陀夫人という官女(ツレ)を先頭に、その左右に一歩下がってツレに輿をさし掛ける輿舁(ワキツレ)二人、それより少し下がって護衛の官人(ワキ)の四人です。すでにこの最初の登場人物が舞台に現れる場面だけでかなり豪華な舞台になります。
ツレ(旋陀夫人)
・装束:天冠、摺箔、緋大口、紅入縫入腰帯、紅入唐織、唐團扇
・面:小面
ワキ(官人)・ワキツレ
・装束:紅入厚板、白大口、法被、繍紋腰帯、剣、男扇

・旋陀夫人と一角仙人の元へ向かう官人は、どこともわからぬ山路に分け入り、庵を見つける。

・「山路に迷った旅人だが、一晩宿を借りたい」と告げる官人たちを怪しく思いながらも、シテが姿を現す
No.2
シテ登場。(一角仙人)
・装束:黒頭、無紅厚板、水衣、腰帯、腰蓑、剣、葉団扇(はうちわ)
・扉を開けて半身を萩屋の外に出すときにツレの旋陀夫人の姿を見る
※絶対にシテは扉を閉めなければなりません。その後の展開で邪魔にならないように・・・

・シテとワキの対話
・美しい旋陀夫人を見て、ただの旅人ではないだろうと不審がる一角仙人に、酒を勧める官人。酒は飲まぬと固辞する仙人のそばへ夫人を酌にやると、これを断っては…と酌を受ける。
※シテも葉団扇を平らに持って左手を添えますが、これは酒を受ける盃の心。ツレはシテの葉団扇の上に唐団扇の先を付け、団扇を次第に縦にしながら高く上げて、瓶の中の酒をシテの盃に注ぎます。

楽の始まり
・「楽」とは舞楽を模したとされている五段構成の舞で、中国人の役が舞うことが多い舞です。舞い手は足拍子をとてもたくさん踏み、また演奏の上では他の舞とは一拍分だけ拍子当たりが前倒しになっているところがが異国風と言えるのかもしれません。

相舞へ・・・
・シテは酒の酔いがまわってくるにつれて興じて立ち上がり、ツレのあとを追って一緒に舞う、という趣向で、ツレが主導する、という珍しい舞い方をする能です。

※このように二人以上の役者が一緒に舞うことを「相舞」と言います。ほとんどの相舞はシテとツレが同じ動作をぴったり合わせて舞う、というものなのに、『一角仙人』だけは わざと型をズラして舞うのです。

・仙境に住む仙人であるシテは舞というものを知らない。そこで、ツレの舞を見よう見まねで、その後をついて行く。
・酒に酔っているためバランスがとれない。
・型が「合う」必要がない相舞、というのは『一角仙人』以外にあるのだろうか?

・「楽」を舞う中でシテは次第に舞うことを楽しみだして、型もだんだんとツレに合うようになって、またツレよりも少し先に舞うようにもなって来ます。ここに至ってシテは舞のコツをつかみ、ツレのことも一時忘れて身体を動かすことに熱中し出すわけです。一方ツレは冷静に舞っていて、シテが我を忘れて舞い始めるのを見ると、そっと舞をやめてかたわらに退き、シテの様子をつぶさに観察したりします。

龍神登場
・岩屋の作物の中に下居して待機していた龍神がここで「スクッと」立ち上がるのは結構大変な事です。

・最後のクライマックス「舞働」と「斬り組」
「舞働」では、龍神二人でシテを威圧するように舞います。二度ほど龍神が剣を振り立ててシテに向かってくるときにシテは剣の柄に右手を掛けることによってそれに対抗します

シテと龍神の斬り組
「舞働」が終わるとき龍神二人は一畳台の上に飛び乗って剣を振り上げてシテを見込み、シテは立ち上がり「そのとき仙人」と謡いながら剣を引き抜いて構え、これよりシテと龍神の斬組が始まります。

・やがて・・・・
一角仙人の通力は失せ、次第に弱り倒れ伏す。龍神は喜び、やがて龍宮へと帰っていった。
以上

能曲目鑑賞ポイント解説

❑「一角仙人」