■「恋の重荷」の作者・背景
・元々は作者不明の「綾の太鼓」という曲を世阿弥が改作したものと言われている。原作に近いものが「綾鼓」で、後に観世流がさらに手を加えたものが、この曲である。。
・決して叶うことの無い、身分違いの恋。非力な我が身に悶々とし、遣り場の無い憤りに苦しむ男の内面が主題である。。

※“身分違いの恋”という恋の苦しみ が、現代よりも一層切実なものであった。卑賤なシテと 和歌的教養の豊かなツレという対比が、“身分違いの恋”という本作の主題を、いっそう鮮やかに描き出していると言える。
※宝生流などにある「綾鼓(あやのつづみ)」と類曲として有名です。

見どころ
①美しい女性に恋をし、わずかな希望にすがり、決して上げることのできない重い荷を持とうとする老人の哀れな姿。
※老人の心の揺れが、緩急鋭い謡と、ごくわずかな所作とで見事に表現されている。

②老人の物まねは、能における「重要な奥儀であると、「風姿花伝」に記されているように、いかにも「老人」では何の技術もなく、見る人に強い印象を与えない。従って、「ゆったりとした」「華やかさ」が求められているが、ここではそれが表現されている。

③「立ち回り」による効果。・・・・恨みに迷う心の乱れ。

④老人は恨みとおすことなく、最後は女御の守護神になると言います。恨み通すよりも、報われずとも、愛した人の側で支える道を選んだ老人の、けなげが印象深い。

≪前場≫

場所:京都・白河院
最初にツレ登場。(白河院の女御)
・装束:唐織、天冠、着付・摺箔、緋大口、赤地唐織壷折、腰帯。
・面:小面
※この女性は后に準ずるくらいの高貴な身分である。人の前に姿を表すなど、通常では考えられないことである。ここから悲劇は始まる。⇒老人の勘違い。

ワキ(白河院の臣下)・アイ(下人)登場。
登場楽:「なし」。
・装束:風折烏帽子、水衣、着付・段厚板、白大口、単狩衣、腰帯、神扇

・庭掃きに携わっていた山科荘司は、あるとき女御の姿を垣間見てしまい、恋の病となった。女御は、この賤しい老人の思いを諦めさ せようと、「巌を錦で包んだ重荷を持って、庭を何度も往復するならば、再び荘司の前に姿を見せよう」と言う。ワキは、この難題を伝えるべく、荘司 を呼び出すよう従者に命じる。

前シテ登場。
・「登場楽」なし
・装束:尉髪(じょうがみ)、水衣、着付・小格子目引または無地熨斗目、腰帯、尉扇
面 :阿古父尉

★悲劇の始まり
・「荷を持って庭を何度も往復するならば、女御様は再び姿をお見せになるだろう」と告げる。荘司はそれを聞いて喜び、荷を持つ準備を始める。
・・・・が・・・・・どうしても荷物が持ち上がらない!
※荘司は失意の中で、ついに息絶えてしまう。女御への怨みの思いを抱いたまま…。

《中入り》
◯アイ登場

≪後場≫

アイが荘司の死を報告し、ツレとワキは彼を悼むため重荷のもとへ向かいます。
・荘司を悼んだ後、二人は帰ろうとするが…、何と、女御は岩に押さえつけられたかのように、動けなくなっていた。

・「登場楽」は「出端」。
※後場にだけ有る登場の音楽で、神・鬼畜・幽霊などの非人間の役のシテ又はツレに使われる。必ず太鼓が入る。

後シテ登場(山科荘司の亡霊)
装束:白頭、水衣、着付・厚板、腰帯、半切、法被、鹿背杖(かせづえ)
面 :重荷悪尉(おもにあくじょう)

亡霊は女御に詰め寄る。
「怨めしいこと。偽りによって私の心を掻き乱した女御の、何と心無きことよ。想いはいずれ叶うと信じればこそ、どんな辛苦にも堪えられるというのに。この重荷が、持てようものか…!」

立ち回り
・囃子にのって、恨みに迷う心の乱れを表すように舞台上を廻る。

女御を責めるが、やがて恨みも消え、終わへ・・・・・。
・女御を責めるが、恨めしくとも好きだった人。やがて悪心をひるがえした亡霊は、「私の亡き跡を弔うならば、怨みも消え るでしょう」と言うと、女御をまもる守護霊となって、消えていったのだった。
以上

能曲目鑑賞ポイント解説

❑「恋重荷」